法改正後の現場課題と業界の展望
2025年3月25日、東京・六本木のDMM.com本社にて、「CBD・ヘンプ業界横断勉強会兼懇親会」が開催されました。主催はGreen Trade Japan(GTJ)。本イベントには、産業用大麻(ヘンプ)やCBD(カンナビジオール)製品に携わる国内外の業界関係者約110名が参加し、法改正を受けた新たな市場環境と今後の課題について活発な議論が行われました。

イベント開催の背景と目的
2024年の大麻取締法改正により、日本のCBD・ヘンプ業界は大きな転換期を迎えています。THCに関する規制が部位規制から成分規制へと移行したことで、産業用大麻の栽培やCBD製品の流通に新たな可能性が生まれました。この制度変化を受け、GTJは、業界団体や事業者、研究者、医療従事者など多様な立場の関係者が一堂に会し、制度下での課題共有と今後の連携について対話を行う場として本イベントを企画しました。
多彩な登壇者と参加団体
今回の勉強会には、国内の主要団体が多数参加しました。特に以下の団体が一堂に集まった点は大きな特徴です。
- 一般社団法人 麻産業創造開発機構
- 一般社団法人 日本カンナビノイド協会
- 一般社団法人 日本ヘンプ協会
- Hemp Hub
- 一般社団法人 Green Zone Japan
- 一般社団法人 日本カンナビジオール協会
- 一般社団法人 All Cannabinoid
- 一般社団法人 全国大麻商工業協議会
- 一般社団法人 日本カナビス産業協会
さらに、産業用大麻の栽培に取り組む農業者や、CBD製品を展開する企業、検査機関、薬剤師、医療従事者など、さまざまな立場の参加者も集結。それぞれの現場で得た実践的な知見や直面する課題が共有されました。
セッション1:産業用大麻の栽培
〜出口戦略が不明確な中での免許取得の課題〜
法改正によりTHC含有量に応じた成分規制が導入されたことで、産業用大麻の栽培免許取得が進みつつあります。一方で、収穫後の製品化・流通・販売といった「出口戦略」が明確でないことが共通課題として浮かび上がりました。
農家が導入するコールドプレス加工機の価格や、加工の所要時間、免許取得のための事業計画策定の難しさといった実務的な障壁について、農業従事者や許可申請準備中の登壇者から具体的な声が挙げられました。これらの議論を通じて、単に免許を取得するだけでなく、栽培から加工・流通までを一貫して設計する包括的なビジネスモデルの必要性が再確認されました。

セッション2:CBD事業の現状と未来予測
〜市場拡大と自主規制のバランス〜
CBD事業者によるセッションでは、法改正に伴い新たな資本や事業者が市場に参入する動きがある一方、THCの閾値の厳格化が中小事業者の運営コストや検査対応に影響を与えているとの課題が共有されました。
CBNの精神作用やCB1受容体との関係に関する議論を背景に、製品の安全性を確保するための自主規制の必要性が強調されました。特にエディブル製品に関しては、摂取量の過剰による健康リスクを踏まえた啓発活動や販売方法の見直しが重要であるとの声が上がりました。

セッション3:検査・認証・医療
〜制度と現場をつなぐ品質保証のあり方〜
検査体制に関しては、1ppmという厳格な残留THC基準への対応が求められている現状で、高性能機器の導入コストや、微量成分検出時のばらつき、再検査に伴う数値変動のリスクなど、現場の課題が共有されました。
ISO/IEC 17025のような第三者認証の取得については、一部企業から「信頼性を高める指標」として評価される一方で、業界全体における実務的な有用性や普及の現実については多様な見解が示されました。
また、厚生労働省が通知などを通じて紹介する検査機関情報についても、業界内での解釈や運用にばらつきがあるとの指摘があり、制度趣旨の正確な理解と、各事業者が主体的に品質管理に取り組む姿勢の重要性が改めて確認されました。
さらに、CBD製品の経時変化により微量のTHCが生成される可能性があるという点については、安定性試験の導入が必要であるとの意見も共有されました。厚労省研究班による関連研究や、フルスペクトラム製品の安定供給に向けた制度設計の議論など、現場と行政をつなぐ科学的アプローチの必要性も提示されました。

総括と今後への期待
懇親会では、立場を超えた参加者同士の対話が活発に行われ、登壇者との個別の意見交換も続きました。多くの登壇者が「これは長い戦いの始まり」と語り、今後の制度整備や市場形成には、時間をかけた対話と関係者間の連携が不可欠であることが再認識されました。
本イベントは、日本のCBD・ヘンプ業界が直面する制度的・技術的・社会的課題を可視化し、それを乗り越えるための共通理解とアクションの出発点となりました。今後の発展に向けては、業界全体として実務者・研究者・行政間の継続的な連携と建設的な対話が求められます。